1. インプットファイルの準備


AMBERは60余りのプログラムから成り立っている。しかし通常の分子動力学シミュレーションを行うにはtleapとsanderの二つのプログラムで事足りる。この二つのプログラムに加えて、canalとptrajのどちらかをヘルパープログラムとして使うことになる。この二つのプログラムは AMBER suite のなかでデータ分析によく使われるが、 AMBER trajectory filesを扱う他のプログラムがあればそれを用いても良い。:

コンピューターを用いる他のプログラムと同様にコンピューターシミュレーション実行はinputとoutputが全てである。 sanderはAMBERの中でもメインのシミュレーションエンジンであり、二つのインプットファイルを用いシミュレートされる分子システムを記述する。一つはシミュレーションの条件を記述しその情報により通常のクラッシック分子動力学を計算する。tleapはpdbのような前もって決められた座標ファイルを取り込み、 topology file と restart fileを生成する。という言い方は少し簡単化し過ぎで、tleapはそれ以上の機能があり、 AMBER中 でpdbファイルを取り込みsanderのためのインプットファイルを作成するだけのプログラムではない。別のヘルパープログラムとしてxleap もある。その差はxleapはGUI仕様、tleapはTUI仕様である。AMBERを使い始めた頃は、xleapを愛用し時代遅れのtleapに抵抗した。が時間と共にTUIの価値に気がついた。もし多くのシミュレーションをする予定なら、TUIに少し時間を割いても悪くはない。

最新のインテグラーゼコアドメイン (pdb id 1qs4) x線解析構造は結晶学的モノマーを3分子含んでいる。さらにループ領域に数個の残基が欠けている。pdbをtleapに取り込む前に、これらの問題を修正しておく必要がある。いかにpdb中の欠けている残基のモデル化するかは研究目的と研究するモデルに深く関係する。モデリングを始めたばかりで上記のことをどのようにするかが不明な場合、 professor Gale Rhodes (University of Southern Maine)が非常に良いチュートリアルをフリーの SwissPDB Viewer (Deep View)を用いてインターネット上で行っている。本研究では欠けてる残基を別の結晶構造 (pdb id 1bis) を用いてモデル化した。欠けている残基に加えて2つのポイントミューテーションが133と185位にある。これらのミューテーションは主にそのタンパク質がより良い結晶を作るように導入された。しかし F185K ミューテーションはその後 second surface loop 近傍の動力学に影響すると考えられた。本研究ではその second surface loop の動力学に興味があるので、 Lys から Pheに戻すべきである。 E133W ミューテーションは本酵素のクリティカルな領域には無くpdbファイルはpdbシークエンスと該当するシークエンスデータベースで矛盾があるので、結晶座標をそのままにしておいた。現在ではコンピューター上での残基の変異は、実際上の変異に比べてきわめて簡単である。フリーのグラフィカル分子エディタプログラムがあり、本チュートリアルでは SwissPDB Viewer を用いて作業した。このプログラムはフリーであり、エネルギー最小化機能を有しており幾ばくかモデル化構造の修正が可能である。時間の節約のため修正した構造をダウンロードページから得ることもできる。

Download page, or click HERE.

前置きはお終いにして本論に入る。

ダウンロードが済んだらファイルの中を見てみる。中に水素原子がついてないことが分かる。もしこのファイルを用いるのが嫌で、自分でpdbファイルを準備するならば、全ての水素原子が取り除かれていることを確認する。初期モデルを制作したソフトによってはamberとは互換性のない水素の名前を加える場合がある。従って全ての水素を除いてtleapで水素を加える方が簡単である。 コマンドラインでtleapを実行する。以下のような出力が見える。:

$ tleap
-I: Adding /amber/dat/leap/prep to search path.
-I: Adding /amber/dat/leap/lib to search path.
-I: Adding /amber/dat/leap/parm to search path.
-I: Adding /amber/dat/leap/cmd to search path.

Welcome to LEaP!
Sourcing leaprc: /amber/dat/leap/cmd/leaprc
Log file: ./leap.log
Loading parameters: /amber/dat/leap/parm/parmME.dat
Loading library: /amber/dat/leap/lib/all_nucleic94.lib
Loading library: /amber/dat/leap/lib/all_aminoME.lib
Loading library: /amber/dat/leap/lib/all_aminoctME.lib
Loading library: /amber/dat/leap/lib/all_aminontME.lib
Loading library: /amber/dat/leap/lib/ions94.lib
Loading library: /amber/dat/leap/lib/water.lib
>

ディレクトリが違っても問題はない。これは自分のleaprcファイルを指定すれば解決する。後ほどleaprcファイルの設定を説明するFor 今は初期設定に従う。

もしtleapの実行に問題が有る場合は環境設定の変数に問題が無いかをチェックする。もしbashシェルを使用しているなら ~/.bash_profileに以下の2行が入っているかを確認する。

export AMBERHOME=/amber
export PATH=$PATH:/amber/exe

Cシェルユーザーは ~/.cshrc file に下記の2行を加える。

setenv AMBERHOME "/amber"
setenv PATH "${PATH}:/amber/exe"

ここで/amber はAMBERがインストールされているディレクトリである。

ついで pdb ファイルを tleap にmol と言う名前の変数で読ませる。

...
...
Loading library: /amber/dat/leap/lib/water.lib
> mol = loadpdb wt1mg.pdb
Loading PDB file: ./wt1mg.pdb
Unknown residue: MG number: 154 type: Terminal/last
..relaxing end constraints to try for a dbase match
-no luck
Added missing heavy atom: .R<CGLN 154>.A<OXT 18>
Creating new UNIT for residue: MG sequence: 155
Created a new atom named: MG within residue: .R<MG 155>
total atoms in file: 1189
Leap added 1192 missing atoms according to residue templates:
1 Heavy
1191 H / lone pairs
The file contained 1 atoms not in residue templates
>
 

全て順調に運べばtleapからはエラーメッセージは無いはずである。最初は何らかのエラーメッセージの出るケースが多い。例えばloadoff MG.offの記述が無いとMGは未知の残基であるとのエラーメッセージがでる。これはパラメーターライブラリにMGが含まれていないからである。すでにインストールされた AMBER がMGパラメーターを含んでいる場合はこのエラーメッセージは出ない。もしそのパラメーターが含まれてない場合はダウンロードページからMG.offファイルをダウンロードし今作業しているディレクトリに置き、tleapを再開して "loadoff MG.off"を加える。その後pdbファイルをロードする。 (訳注: これは先のleap.in ファイルを用いたtleapの実行とおなじである。):

Welcome to LEaP!
Sourcing leaprc: /amber/dat/leap/cmd/leaprc
Log file: ./leap.log
Loading parameters: /amber/dat/leap/parm/parmME.dat
Loading library: /amber/dat/leap/lib/all_nucleic94.lib
Loading library: /amber/dat/leap/lib/all_aminoME.lib
Loading library: /amber/dat/leap/lib/all_aminoctME.lib
Loading library: /amber/dat/leap/lib/all_aminontME.lib
Loading library: /amber/dat/leap/lib/ions94.lib
Loading library: /amber/dat/leap/lib/water.lib
> loadoff MG.off
Loading library: ./MG.off
> mol = loadpdb wt1mg.pdb
Loading PDB file: ./wt1mg.pdb
Added missing heavy atom: .R<CGLN 154>.A<OXT 18>
total atoms in file: 1189
Leap added 1192 missing atoms according to residue templates:
1 Heavy
1191 H / lone pairs
>

tleap プログラムはよく出来ており、C- 末端のOXT原子も自動的に加えられている。これはエラーメッセージではない。ここまででpdbファイルがロードされ、水素原子と欠けていた重原子が加えられ、全ての原子にパラメーターが割り当てられた。 次のステップは少しコンピューター的に強い意味を持っている。water box とカウンターイオンを加えてシステムのチャージをゼロにする。


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